私は、けっこうバイトの面接に落ちている。
これは人に言うと驚かれることが多い。「バイトの面接って落ちることあるの?」と言われるのである。どうも一部の人々にとって、バイトの面接とは採用前提で進むものであり、形式上のものにすぎないらしい。
しかし私は半分ほど落ちた。今回はその中から三つの話を書いてみたい。
最初に、この記事の結論を書いておく。
- 鼻毛を出したまま面接に行ってはいけない
- 面接中に身体のふるえが止まらなくなってはいけない
- 男なのに女子更衣室でドライヤーを売る仕事に応募してはいけない
以上がこの記事から得られる教訓である。
この三つを見て「知りませんでした」と感じる人は一人もいない気がする。いたら自分のことも忘れて心配してしまいそうだ。しかしもう仕方ない。自分に書けることを書くしかない。教訓がほしい人はイソップ童話でも読みましょう。「ウサギとカメ」とか「アリとキリギリス」とか色々ありますので。
鼻毛を出したまま面接を受けてはいけない
まずはネットカフェのバイト面接を受けた時のこと。
私がバイト生活を送っていたのは二十代前半である。バイトが好きなわけじゃないんで、ギリギリまでねばっている。すくない貯金を切り崩して貧乏暮らしをし、それでもどうしようもなくなればバイトする。なので面接を受けるときは、たいてい二ヶ月ほど何もしない期間がはさまっていた。するとどうなるか?
「社会性」が底辺まで落ちているのである。
この時期の場合は、誰とも会わずに『タクティクスオウガ』というゲームを黙々とやっていた。食事と排泄とタクティクスオウガで一日が終わっていた。自分がタクティクスオウガをするだけの昆虫になっていると実感していた。しかしさすがに生活がヤバくなる。なので近所のコンビニでタウンワークを持ち帰り、ネットカフェの面接に応募した。
数日後に面接となった。二ヶ月ほど誰ともマトモに会話していなかったが、そこはもうパッと意識を切り替えて、フォーマル寄りのカジュアルな格好で面接に行った。要するにジャケットを羽織ったのである。面接はとどこおりなく進んだ。私は過去に接客業の経験があることをアピールしておいた。これは嘘ではなかった。なんとなく手ごたえを感じて帰宅した。
しかし、帰って鏡を見ると鼻毛が3本出ていた。完全に出ていた。言い訳の余地のないほど出ていた。右の穴から2本、左の穴から1本。そんな状態で、私は元気よく「接客の経験あります!」と言っていた。うそつけ、と思うだろう。鼻毛に接客させていたのか。
もちろん採用の電話はなかった。すこしだけ期待して電話を待っていたが、音沙汰なしだった。そして面接時に鼻毛が出ていると落ちるという教訓を得た。イソップ童話ふうの題を付けるならば「バカと鼻毛」であるが、これはもう、イソップの人格をうたがいますね。ウサギとカメ、アリとキリギリス、バカと鼻毛。
イソップ、最後どうした。
面接中に身体がふるえだしてはいけない
次に、チェーン系の牛丼屋の面接を受けた時のこと。
これも同じパターンだった。ギリギリまで無職でねばってから、しかたなくバイトに応募する。当然、夜型生活になっている。この時期はブラウザのゲームをずっとやっていた。ブロックをひたすら消していくゲームである。クリアしようが、ゲームオーバーになろうが、ふたたび最初からはじめる。それを繰り返していた。「生産性」と書かれたハンマーで後頭部をブン殴りたくなる姿である。ドラッカーからドラッカーを引いてバカを足したときに出てくる姿だ。答えはバカである。
私はひたすらブロックを消していた。しかし、どれだけブロックを消そうが現実は消えない。「もうダメだ」と覚悟を決めて、近所の牛丼屋に面接を申し込んだ。しかし面接当日になっても生活リズムは戻らなかった。面接の直前までブロックを消していた。そのまま徹夜して無理やり行った。目は血走っていたし、くまもひどいものだった。それでも、フォーマル寄りのカジュアルな格好で行った。ジャケットである。とにかくジャケットさえ着ればいいだろうという発想である。
面接は店内の一席でおこなわれた。ちょうど客の引いた時間帯だったからだろう。店長と対面で話した。私は自分がブロックを消すだけの生き物であることを悟られないように、せいいっぱい明るく振る舞った。しかし無理が祟ったのか、面接開始5分で全身のふるえがとまらなくなった。徹夜あけの疲労と面接の緊張があわさった結果のようだった。
とにかく普通にしていても身体がガクガク震える。そんな状態で、やはり「接客の経験あります!」と言っていた。しかしどう見ても人間との会話すら初めてみたいな状態だった。オオカミに育てられた男が山から降りてきて面接を受けている感じ。履歴書に「山での生活」という一文を探してしまう。
もちろん採用の電話はなかった。
男なのに女子更衣室でドライヤーを売る仕事に応募してはいけない
どうしようもない話が続いているが、最後の話はいちばんどうしようもない。これはもう見出しの時点で「そりゃそうだろ」としか言えない。なぜ、男なのに女子更衣室でドライヤーを売る仕事に応募したのか。なぜそんなことになってしまうのか。
理由はある。ちゃんと調べずに応募したのである。クソみたいな理由である。
具体的には、スポーツジムの女子更衣室で新型のドライヤーを売る仕事だった。マイナスイオンがどうとか、そういうドライヤーだった気がするが、覚えていない。いま思うと、少しうさんくさい仕事でもある。これは説明会を兼ねた集団面接だった。二十人くらいが集まっていたが、私以外、全員女だった。女子更衣室で売るんだから当然だろう。私は若い女たちに囲まれながら、男まるだしの顔で説明を聞くことになった。
最後に質問はないかと言われ、ヤケになっていた自分は、「私は男性ですが、その場合はどうなるのでしょうか」と聞いた。説明していた人間はしばらく沈黙してから、「男性の方には女子更衣室の前で売ってもらいます」と言った。女子更衣室の入口でドライヤーを売る自分を想像して死にそうになった。そんなものは変態ドライヤー男じゃないか。
これに関しては、どうして応募の時点で弾いてくれなかったんだと妙な恨みかたをした。あれ以来、「地獄」という言葉を見かけるたびにあの状況を思い出している。
まとめ
以上が私のバイト面接失敗記録である。
よって、あなたが鼻毛を出さず、身体もふるえず、男なのに女子更衣室でドライヤーを売る仕事に応募しなければ、面接の成功率は大幅にアップすると思われる。まあ、それでも受かるかは分かりませんが。これ、スタートラインの2キロ手前でつまずいた男の話なんで。
著者プロフィール
上田啓太
執筆業。京都在住。ほとんど家から出ない。
ブログ:真顔日記 Twitter:@ueda_keita
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